『始まりの木』 夏川草介 (小学館)

 

 この国の神様の在り方

 

 民俗学、フィールドワーク、伝承・・・あまり日常ではなじみのない世界ですが、小説の終盤で、亡びゆく日本人(の心)を救うのは民俗学研究なのではないかという著者の想いが伝わってきます。

 物語の主人公は民俗学研究室の院生・千佳と、彼女とともに日本中を歩き回る研究室准教授の古屋。過去の事故で傷めた足をひきずりながらどこへでも出かけてゆくフットワークと誰もが黙ってしまうような毒舌ぶり、反面、学界で一目置かれる深い洞察力と見識―そんな古屋のキャラクターが読者をひきこみます。

 2人が旅の先々で遭遇する不思議な出来事は、地元の人に言い伝えられているような類の、神様や仏様が見せた幻のような類のもので、そんなことも起こるかもしれないと感じます。

 「信じるかどうかではなく、感じるかどうかがこの国の神様の在り方」―目を開かれる思いがしました。

 自分の中にも息づく日本人的な神様の在り方、不思議を感じる心を大切にしていきたいと思いました。