リーフの旅

カテゴリ: 児童・絵本

『ゆきのなかのりんご』 フェリドゥン・オラル文・絵 (復刊ドットコム)

 

 ゆきのリズム

 

 お話は動物たちが出てくる、冬の森のありそうな内容なのですが、色の感覚(ほぼ茶系一色に雪の白とりんごの赤)が素敵だなと思い、思わず手に取ってしまいました。

 冬の空と雪の積もった地面を温かみのある茶色で表現するのは珍しいですし、木々のこげ茶と、うさぎ・ねずみ・きつね・くまの明るさの違う茶色、ほらあなの黒っぽい茶色はどれも同系色なのにそれぞれ主張があります。

 そこに絶え間なく降る様々な大きさの雪の白が、絵本の最初から最後まで画面を埋めていて、雪の動きや音まで感じられます。

 そしてアクセントのりんごの赤。

 色のリズムが、何気ない冬の森の出来事をやさしく包み込んでいて、動物たちがいきいきとして見えます。

『ウマと話すための7つのひみつ』 河田桟 (偕成社)

 

 「馬語」で話しかけてもらうには

 

 梨木香歩さんの『歌わないキビタキ』という本の中に出てくる絵本で、どうしても読んでみたくて、久々に図書館の絵本コーナーへ。

 野生のウマたちと暮らし、ウマたちのユニークなコミュニケーションのあり方を知った作者が、「馬語」のひみつを教えてくれます。

 耳の動きや鼻の動き、脚の動きなどがきもちを表しているのは想像できますが、他にもウマ同士がいまのきもちにちょうどいい距離を互いに感じながら動いていたり(距離も馬語)、お互いが安心するまでゆっくり時間をかけて目を合わさずに草を食べたりしながら「はじめてあいさつ」にこぎつける、など、ウマ社会の言葉があるのです。(この距離の縮め方は少し参考になるかも)

 人がウマから馬語で話しかけてもらえるかもしれない方法は「なにもしないこと! 少し遠くで じっと動かないで 目を合わさないで 楽しい気持ちで のんびり待つこと」だそうです。

 自分は午年ということもあって、ウマたちのコミュニケーションにとても親近感を覚えました。

『めぐる森の物語』 いまいあやの(BL出版)

 

“リスの木の実、ぼくのどんぐり”

 

 動物や木々がやさしい色で繊細に描かれていて、ひと目で好きになってしまいました。

 口に袋をくわえてかけてゆくウサギのあとを男の子がおいかけていくと、そこはぽっかりとあいた荒れ地でした。

 ウサギたちが去ると、たくさんの鳥たちが、行ってしまうとリスたちがやってきて、みんなそれぞれ木の実や種をうめていくのです。

 クマはクマ流の、小さな虫たちも自分たちのやり方で種をまいていきます。

 夢の中で百年後の森を見た男の子は、目が覚めると自分もどんぐりをうめます。男の子が去っていく後ろ姿を見送る動物たちの背中が何ともいえずやさし気で、森と動物たちのつながりの中に加えてもらったような気もちになります。

 枠をはみ出して描かれた枝や木々の間を泳ぐさかな、切り株についている窓など、よく見ると遊び心のある絵の仕掛けがたくさんあり、絵の世界をじっくり楽しむことができます。

 自然環境の問題をやわらかく、でも確かに心に届く効果的な表現で描いていて、絵本の力を感じます。

『たぬき』 いせひでこ (平凡社)

 

「たぬ記」

 

 作者のほかの絵本とは一線を画すような手触り感のある、ノンフィクションのドキュメンタリーを見ているような作品でした。

 作者が2011311日以来つけている地震日記が、庭にやってくるたぬきの家族の観察記「たぬ記」になっていくさまが描かれています。

 夜のデッキの明かりの中に幻燈のように浮かび上がった毛むくじゃらのかたまりが、日を追うごとに数を増し、やがて昼間の光の中にその姿と生活を現します。

 プラスチック容器を頭からはずしてやったことがきっかけで生まれた作者とたぬき一家のささやかな交流、やがてやってくる別れ。

 作者の淡い水彩画のかわいらしいたぬきたちと、挿入される手書きスケッチの「たぬ記」、その端にメモされている日本中の地震の状況。

 あの震災後の日本で、人だけでなく動物たちも必死に生きてきたのだとダイレクトに伝わってきました。

 『ヒトも動物も木々も草花も、生きるために生まれる。』―作者の言葉が、たぬきたちの様子を通して迫ってきます。

『ぼくらのまちにおいでよ』 大桃洋祐 (小学館)

 

“ぼくらのまち”では、みんなが自由にのびのびと働いていて、少しばかりの型破りも誰もがすんなり受け入れています。

ウマのゆうびんやさんは得意の足を活かしてスピード配達、カバのクリーニングやさんは水中で洋服のふみあらい。おかしやさんのリスたちはたなをかけまわりながらこっそりつまみぐい。

どうぶつたちの世界のお話かと思いきや、にんげんとどうぶつがいっしょに働く自由な世界なのです。

仕事がオフのときの公園でくつろぐにんげんとどうぶつたちの様子もほほえましいです。

“多様性”を認め合うことが世界のテーマとなって久しいですが、絵本ならではの表現で“多様性のある世界はたのしそうだな”と感じさせてくれるような絵本です。

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